Printer Friendly Version 国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)活動報告書に関する国連安保理協議でのニコラ・セラコヴィッチ外相の演説(2022/10/18) @ 19 October 2022 08:35 AM
 
敬愛なる安全保障理事会議長と安全保障理事会メンバー、
そして親愛なる特別代表の皆様、
 
この尊敬すべき国連の機関にて再び演説し、本日、私達の国の南部の州であるコソボ・メトヒヤ領内における国連ミッションの活動に関する事務総長の新たな報告書について話し合うことを嬉しく思います。
 
この報告書の提出について、事務総長と事務総長特別代表、国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)長官に感謝致したいと思います。私達はズィヤデ女史がこの非常に責任ある職務を遂行する為に、特に包括的な概観の必要性と現地の状況の複雑さを念頭に置きながら、努力を払われていることを認識しています。
 
またこの機会に、セルビア共和国が国連安全保障理事会決議第1244号により設立されたコソボ・メトヒヤにおけるUNMIKの活動を高く評価していることを強調したいと思います。特に同ミッションの任務の基本的な目標である、この私達の南部の州に居住する全市民の平和で正常な生活がまだ実現していないことからも、私達はUNMIKの担当範囲と能力が変わることなく、これからも継続的に活動するよう提唱するものです。
 
ご列席の皆様、
 
残念ながら、この数ヶ月間、コソボ・メトヒヤには更なる安定ももたらされることはなく、州での状況は報告書に示された通りではないことを申し上げなければなりません。プリシュティナの指導者は、一方的な動きで、意識的かつ組織的に民族間の差異を深め、非アルバニア系住民に対する差別と蔑視を引き起こし続けています。私達の知る限りでは、今年に入ってから105件の民族的動機による攻撃が記録されています。また更にプリシュティナは、ベオグラードとプリシュティナの間での交渉と問題解決に至るための基本的なメカニズムとして、両者間対話で合意されていない手順や措置をとることによって、積極的に行政的、官僚的障害を築いています。この意味で、彼らの態度や行動には多くの点で問題があるのです。彼ら暫定自治機関はその無責任な行動によって、ベオグラードだけではなく、EUや国際社会のその他の関係機関の努力を意識的に妨害しているのです。そこには2つの目標を実行する明らかな意図があります。1つは、想定されている義務の履行を回避することです。そしてもう1つの、究極で、はるかに憂慮すべき目標は、セルビア人の威嚇、疎外、迫害にあります。
 
その結果としてこれまでと同様に、セルビア人は引き続き様々な方法にて威嚇され、生まれ育った家、村、街から離れるよう促され、一方で避難した人々は自分達が生まれ育った場所、生活を始めた場所に戻ることを思いとどまらされているのです。暫定機関は、まだ残っている文化的・民族的多様性を可能な限り取り除き、消し去るために組織的に動いているのです。また同時に、プリシュティナはあらゆる手段を用いて、意識的に民族間の緊張を煽っています。一例として、「民族の憎悪と不寛容を扇動した」との理由で逮捕されたニコラ・ネデリコヴィッチは、実際には宗教祝日ヴィドブダンの祭典に参加していただけなのですが、物的証拠もなしに8カ月の刑を言い渡されました。一方で、1999年以降だけで1,000人以上もの人々が殺害されたセルビア人については今日に至るまで、法的に有罪判決を受けた加害者が一人としていないことを思い出してください。このような計画的な脅迫の為に、コソボ・メトヒヤのほぼ全ての町や村が民族浄化されてしまいました。プリシュティナの代表者達はその行動によってセルビア人の苦しみを無視し続け、何世紀も続いた故郷を離れなければならなかったセルビア人の傷に塩を塗り続けているのです。私は強調しますが、故郷を捨てたセルビア人の数は20万人以上にも上るのです。このような関係が23年間続いており、変わっていないのです。これはプリシュティナの暫定自治機関がその声明でしばしば断言している民主的価値と原則に完全に反するものです。プリシュティナの代表団はこの尊敬すべき機関に対するこれまでのプレゼンテーションの数々において、過去のことを強調し、一方でコソボ・メトヒヤでの非アルバニア系住民の現在の暮らしぶりを痛々しいまでに省略しているのです。
 
したがって、私は国家レベルでの差別の終焉と州でのまともな生活が始まる為の条件を作り出すには、関係する国際的関与者とプリシュティナの真の政治的意志が求められているのだと強調する必要があると考えています。
 
敬愛なる安全保障理事会メンバーの皆様、これまでの対話でのもう一方の当事者による硬直した、問題点の多い、極めて軽薄な行動に皆様の注意を喚起することをお許しください。上記の目標を達成する為、プリシュティナはいわゆる互恵政策を適用しているのですが、これは残念ながら彼らが独自に考え出されたものではなく、またよく考えられた悪意のある戦略であると言わざるを得ません。プリシュティナは対話の中心的なテーマとして相互承認を主張し続けることに加え、いわゆる互恵主義政策を始めましたが、これはプリシュティナの現在の政治指導者がいかなる妥協的解決策も見出そうとしていないことを本質的に最もよく示しているのです。思い出していただきたいのは、ベオグラードとプリシュティナの間の協議は、プリシュティナの現在の指導部が選ばれた後に始まったのではなく、(2011年3月8日の)技術的対話の開始以来11年間も続いてきたという事実です。したがって、現在の対話の形式を否定し、現在の様々な政治的要因に適応していないという理由だけで合意を取り消そうとする試みは到底受け入れられません。現在の地政学的な状況を利用して、長年にわたって苦心して取り組んできたことを一挙に消し去ることも容認できないものです。ベオグラードは、当初から対話に組織的に参加してきましたが、一方で相手側の関与は、その政権を担う政治的選択肢によって変化を繰り返してきました。
 
プリシュティナの暫定自治機関の現指導部の厳しい政治的パフォーマンスと語り口には、具体的な不安定化への試みが伴っています。今回の報告書の対象期間中、社会への統合の試みと称して、車のナンバープレートに関する措置がとられています。私は何度も繰り返しますが、ベオグラードとプリシュティナの間の対話では、このような措置の導入について何の合意もありませんでした。皆様、私は今日もプリシュティナの暫定自治機関代表から、自分達は全ての義務を果たしたと主張する声が聞こえてくるものと思います。しかしナンバープレートの再登録に関する彼らの決定は、もう何度目になるかわかりませんが、プリシュティナが合意を履行しないだけでなく、対話の結果を無効にして、また新しい危機を作っていることを物語っているのです。このような強引な措置の効果は、決定がなされて以来、セルビアのナンバーの再登録車が一桁台に留まり、そのうちコソボ・メトヒヤ北部に住むセルビア人の車は僅か2台という結果に最もよく表されているものと思います。これもまた、プリシュティナが万人の支持を得ているわけではなく、彼らの指導者の恣意性に耐えられないセルビア人住民の自然な反応を常に誘発していることを示す指標となっているのです。
 
また今日も、コソボ・メトヒヤに住むセルビア人のあらゆる反応を、ベオグラードが不安定化のために組織した活動だとして紹介しようとする、プリシュティナ代表者が既に準備した語り口をこの場で耳にすることがあるかと思います。そのような主張は、単に事実ではないと申し上げておきましょう。セルビアは、コソボ・メトヒヤの非アルバニア系住民の間に見られるプリシュティナへの抗議を、どのような形であれ封じ込めることは出来ません。この市民の抗議が、長年にわたる制度的暴力と非アルバニア系住民の権利剥奪に対する反抗であることは否定できない事実であり、今回は合法的に取得した私有財産を平和的に享受する権利が否定されているのです。したがって、プリシュティナは財産没収の試みを止めていないのです。周知のように、彼らのターゲットの1つはセルビア正教会で、デチャニ修道院への土地返還が問題となっているのですが、ここでプリシュティナは逆説的に彼らのいわゆる憲法裁判所の決定をも履行していません。
 
ご列席の皆様、
 
私は、コソボ・メトヒヤにおける非アルバニア系住民の日常生活の実像をどのように説明したらよいか、長い間考えてきました。事実の幾つかにだけ言及します。私達の記録によると、非アルバニア系住民の権利剥奪の激度はとどまることを知らず、民族的動機による事件の数も残念ながら減っていません。多数の事件、ヘイトスピーチ、脅迫、公正な裁判を受ける権利の侵害、移動の自由と宗教的権利に対する脅威、教会や墓の冒涜も前回の報告対象期間に記録されていました。セルビア正教会の建物への頻繁な攻撃も容認できるものではありません。特に、ユネスコの世界遺産リストに登録されている4つのモニュメントを含む、コソボ・メトヒヤ領内のセルビアの文化・精神的遺産に対する屈辱的な態度は、許しがたいものです。司祭や修道院の共同体には多くの行政的、技術的な障壁があり、教会の敷地内に生存することが難しく、不可能にさえなっているのです。
 
市民権に関して言えば、選挙権という基本的な政治的・市民的権利が剥奪されることを想像してみてください。州に住むセルビア人にそのようなことが行われ、また加えて、犯罪撲滅という口実のもとに、プリシュティナの目標を実現する為の道具である特殊部隊“ロス”による脅迫や暴力を伴った侵入行為も頻繁に繰り返されているのです。昨年12月にはシュトゥルプチェ自治体首長のブラティスラヴ・ニコリッチ氏が組織犯罪と汚職の疑いで拘束されましたが、彼はまだ起訴されておらず、ポドゥイェヴォにて勾留されています。その理由はただ一つで、それはシュトゥルプチェのセルビア人コミュニティに更なる、そして最終的な圧力をかけることにあるのです。
 
特殊部隊“ロス”が実際は村の祭りを襲撃し、学校を捜索し、医療用輸液と薬品を運ぶ救急車の運転手を誘拐する為に用いられるとき、いったいどうやって“犯罪との戦い”を正当化できるのでしょうか?これらの行動の動機と合理的な理由とは何なのでしょうか?ジャコヴィツァに帰還した唯一のセルビア人女性、ドラギッツァ・ガーシッチさんの身になって想像してみてください。そこに住むアルバニア人が誇りを持って非アルバニア系住民の立ち入りを禁止している自治体に住んでいる為に、自分の出自や民族籍を理由にパンを買うことがいまだに禁止されているのです。加えて11ものアルバニア人の市民社会団体があなたの追放を求め、アルバニア人でない者がその街に戻ることの禁止を主張しているのです。セルビア人帰還者が直面する脅迫の度合いがよくお分かりいただけるものと思います。帰還者の割合が2%以下にとどまり、それがいまだに世界でも最低レベルである理由もお分かりいただけると思います。ここで私に質問させてください。これらは、民主主義社会として、また地域の安定要因として、世界に紹介されるべき社会の姿なのでしょうか?
 
私たちは、この対話がより広い次元のものであり、地域全体の情勢に影響を与えるものであることを認識しています。セルビア共和国大統領アレクサンダル・ヴチッチをはじめとするセルビア政府高官の発言はすべて、このことを裏付けています。「1日の戦争より100年の交渉がよい」という大統領の言葉は、バルカン半島に住む人々共通の豊かな未来を築くというビジョンの下に、セルビアの指導者が実施している平和、和解、地域協力の政策を最もよく表しています。
 
私は、未来の世代のために明確な共有のビジョンを作ることが、今日のリーダーの責任であると信じています。そのようなビジョンを、ベオグラードとティラナの両首脳は、この地域発の、この地域の為のイニシアチブである「オープン・バルカン」の創設によって示し、すでに具体的な成果を挙げています。セルビアは、バルカン半島全体の市民の為には経済的な繋がりと発展が大切だとの認識が生まれることを期待して、相手側の理解を待つことなく、幾度にもわたってプリシュティナ側にこのイニシアチブへの参加を呼びかけ、手を差し伸べてきました。
 
ご列席の皆様、
 
私達は、セルビア人自治体連合の結成が違憲であるとするプリシュティナの主張を断固として拒否します。なぜなら、この義務に対するプリシュティナ側の態度は、州内のセルビア人に対する態度を表しており、それはセルビア人が民族共同体として組織化し、集団的権利を享受することに反対しているものであることが明白だからです。彼らの行動とは、理想のモデルとして、プリシュティナ、ジャコヴィッツァ、ペーチといったセルビア人のいない地域、あるいは他の州内の類似した場所を目指すものです。私達にとってプリシュティナが丸3470日間も、その義務を果たすことなく、セルビア人自治体連合の発足について話し合うことを拒否している事実は容認できませんが、それにもかかわらず、セルビアは現在の状況に対する妥協的解決案を見つける努力をあきらめないことを断言したいと思います。
 
プリシュティナの代表は、いわゆる「コソボ」の件は完了したと演説でよく繰り返していますが、この14年間、彼らは国連加盟国の多数から認められてはいないことを忘れないでください。いわゆるコソボの独立が現実のものとなったのなら、ではなぜ対話が必要なのでしょうか?なぜ、ベオグラードに対して相互承認の必要性を訴える圧力が強まっているのでしょうか?プリシュティナの現在の政治指導者が受け入れようとしないのは、最終的な解決策を模索する上でベオグラードを迂回することはできないという事実です。これは、プリシュティナによる国際機関への加盟の試みがますます頻繁になっていることについても当てはまるものです。このような動きは、対話に必要な雰囲気を醸成する上で役立つのでしょうか?プリシュティナの破壊的な行動や対話の拒否に報いることになりはしませんでしょうか?いわゆる「コソボ」の国際機関への加盟の試みは容認できない行為であり、セルビアはプリシュティナのそのような動きに断固として反対するというのが私達の立場です。
 
今年4月、この尊敬すべき機関の前回の協議にて、国連安全保障理事会の一部のメンバーからは、プリシュティナには独自の機能的な機関があるという説明のもとに、UNMIKの縮小、更には閉鎖を求める声が聞かれました。しかし私がご紹介したこれまでの経緯や現場の状況は、このセルビアの南部の州における国際機関の駐留が依然として必要であることを何度も思い起こさせるものです。この点で、私達は国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)、国際安全保障部隊(KFOR)、コソボにおける欧州連合・法の支配ミッション(EULEX)、そして欧州安全保障協力機構在コソボミッション(OMIK)がそれぞれに与えられた任務の中で行っている努力の数々を支持するものです。コソボ・メトヒヤのセルビア人およびその他の非アルバニア系住民は、駐留している国際機関を最も信頼し、安全を保証する存在と考えています。これは国際機関による現地でのミッションが国連安保理決議第1244号に基づき、範囲と能力を縮小されることなく引き続き存続しなければならないことを更に裏付けるものです。
 
最後になりますが、
 
最近、あらゆる国際的な場で、国連の原則を尊重しようという声が聞かれるようになったことを指摘しておきたいと思います。私達も、すべての国連加盟国の領土の一体性を支持しています。しかし、セルビアについてはどうでしょうか。国連憲章の原則を適用する必要があるのは、一部の加盟国だけなのか、それともすべての加盟国に対してなのか、この尊敬すべき機関のメンバーの皆様にお聞きしたいのです。これまで一貫して国際法を尊重し、またその国際法に反する行為による影響にいまだに苦しめられている国として、私達は、国家の領土保全や主権を謳う国連憲章と国際法は、すべての者によって尊重され、またすべての国連加盟国に平等に適用されるべきだと考えています。20年以上も前に、まさにこの機関がセルビアの領土保全を確認した決議第1244号を可決したことを思い出してください。しかしこの決議も一部の国々がいわゆる「コソボ」の国家承認によって国連の原則や、国際法を自らの利益や目標に適応させて採択した決議に違反することを阻止することは出来ませんでした。まさに「コソボ」の件が頻繁に取り上げられるようになったのは、そのような前例を作ったことがパンドラの箱を開けてしまったことを示しているのでしょう。なぜなら原則一つ一つの強さは、その完全かつ普遍的な適用と無条件の遵守にかかっているからです。
 
これまでの私の演説の中で、多くの質問をしたことにお気づきのことと思いますが、本日、この尊敬すべき国連安全保障理事会のメンバーとプリシュティナの代表の皆様から、少なくとも幾つかの質問に対するご回答をいただけることを願っています。なぜなら、コソボ・メトヒヤの住民は、セルビア人であろうとアルバニア人であろうと、民族籍を問わず、それに値するからです。
 
コソボ・メトヒヤのすべての住民は、正常な生活の前提条件である、環境の改善と民族レベルの緊張の緩和を望む権利があるのです。そのためには、プリシュティナ側に欠けている建設的な姿勢だけではなく、国際的な関与者からの真の全面的なサポートが必要不可欠です。
 
私はセルビアが、平和と安定、そしてコソボ・メトヒヤに住む人々共通の未来の為に、平和的手段による持続可能な解決策を見出すことに常に深く関与しており、今後もそうあることを強調するものです。
 
ありがとうございました。
 
出典/写真:https://www.mfa.gov.rs